9月2日に帰国してから2週間目、16日の日曜日に念願の富士山に登った。実は、これ、曰く付きの富士登山である。
昨年の9月末、私は友人2人と登ったが、8合目で高山病になり下山した。高校時代から山が好きだった私が頂上まで登れないのは初めてだった。高山病で体が動かなくなると初めて知った。今年はそのリベンジを狙って一人で登ることにしたのである。
|
5合目から見える富士山 |
前日の土曜日の夜、5合目の吉田口駐車場で車中泊したのは、2300メートルの高地に体を慣れさせるためである。高山病の対策は高地順応が大切と聞いていたからだ。
日曜日の朝に出発。駐車場の近くに観光客を運ぶ馬が並んでいるが、なんとなく悲しそうな顔に見えた。人間に可愛がられることもなく、道具として使われる人生、そんな悲運を嘆いていると感じたのは、私の独りよがりの感傷だったろうか。
吉田口の登山道から入る。7合目に着くと、富士山は岩場ばかりの山となる。どこにも木がない。まるで月の斜面のようだ。森が好きな私は、なぜこんなガレキの山に登るのかと、ぶつぶつ言いながら岩場を登る。
|
6合目 |
高度順応するために時間をかけて登ること、頭痛がしたら休むこと、心拍数を上げないようの歩くのが高山病にならないコツである。
|
7合目 |
|
急にガスがかかった鎖場 |
|
岩場を登る人たち |
やっと8合目の富士山ホテルに着いた。二段ベットに寝袋が並べてあるのでホテルとは名ばかりである。しかし、富士山の山小屋はどこも同じ。どの山小屋も狭い斜面にしがみつくように建てられている。
|
二段ベット |
ベットで横になると軽い頭痛に気がついた。高山病の症状である。自分だけかと思ったら「頭が痛い」とつぶやく人がいた。下の食堂に降りると青い顔した女性がベンチで横になっており、介護する男性は不安そうに、「二階は空気が薄いから下で休んでいるんです」と言う。高度は3360メートル。確かに空気は薄いのである。
明日は御来光を見るために頂上まで行くつもりだった。頂上までの高度差は300メートル。歩くと一時間半はかかる。軽い高山病なのに登れるかしらと考えていると、夜になって降った雨は暴風雨になった。台風16号の影響である。
|
富士山ホテル食堂、午前2時半 |
こんな暗くなっても下から登ってくる登山客たちがいるのは驚いた。彼らはびしょぬれになっていたが、山小屋は宿泊客が一杯という理由で中に入れなかった(実際、小屋は満員だった)。山小屋の前でふるえる登山客を見ていると、私たち宿泊客は誰もが悪天候を心配し始めていた。
夜中の2時半には宿泊客が食堂に降りて来た。ホテル側の説明を聞くと、頂上は風と雨が強くて危険、気温は氷点下に近いという。頂上の山小屋である富士館は、9月1日に終了しており、山頂には避難場所もトイレもなかった。
やがて、二つのツアーグループは登山中止を決定、個人の登山客たちも頂上で御来光を見るのを諦めた。私も、無理して登ることはないと、下山することにした。後で知ったのだが、頂上は雪が降っていたそうである。
朝になると、雨は弱まったが、風は強かった。頂上の御来光は見れなかったが、8合目の山小屋の前に太陽が顔を出してくれた。
|
富士山ホテル前のご来光 |
本8合目には富士山ホテルの他に、御来光館、胸突江戸屋、トモエ館などの山小屋があるが、どの登山客も同じである。朝食を終えると一斉に下山した。
|
下に雲が見える8合目 |
|
写真を取る下山者たち |
登山道は岩場だったが下山道はブルドーザー用の道である。岩場と違ってすたすたと歩ける。去年もそうだったが、下に降りると高山病は急に楽になり、体力が戻ってくる。
途中で荷揚げ用のブルドーザーとすれ違う。今日から富士山の7合目以上のトイレは閉鎖、山小屋はほとんど営業を終了する。一般登山はこれで終りである。富士山はこれから厳しい冬に入るのである。
本八合目3360メートルまでの登りは7時間半、下山はわずか2時間半という奇妙な富士登山だった。今回も頂上には登れなかった。しかし、来年はリベンジを諦めることにした。
富士山は遠くから眺めるのが一番いい。それが今回の結論である。
教訓。9月の富士登山はGORETEXのレインスーツ上下は不可欠。防寒具だけではずぶぬれになる。山小屋泊は予約が必要。悪天候でも泊めてくれない場合がある。