2010年5月17日月曜日

Kさんの家の元旦

2010年1月1日

元旦にKさん宅に招待された。彼のハシエンダの自宅はかなり広い。前のオーナーは敷地内に馬を3頭飼っていたという。裏庭にはプール、家庭菜園と鶏小屋、家にはドラムとアンプを並べたスタジオがある。そして、犬が4匹と猫が3匹もいる。Kさんは26才で渡米、裸一貫からレストラン経営者になった人である。25才を筆頭に4人の息子がいるが、彼も奥さんも細かいことに拘らないので、子供達はのびのびしている。


息子たちはパーティ好きである。週末は友達を集めて、家でドラムを叩き、大音量のマイクで歌う。ビートのきいた重低音のベースは近所に鳴り響く。隣のおばあさんが苦情を言い、警察が来たこともあるが、息子たちはあまり気にしない。ロックミュージックに興奮した若者が天井に飛び上がって穴を開けるが、Kさんたちは何も言わない。天井の穴には名前、壊した日時、そして本人のコメントが書いてある。ここは若者の天国である。

Kさんの家は人の出入りが多い。見知らぬ若者が食卓にいることがあり、奥さんが「あの子は誰?」と聞くと、息子たは「俺は知らないよ」と答える。名前さえ知らぬ客は息子の友だちが連れてきた友達である。人種は日本人から中国人、韓国人、ヒスパニック、白人と多様である。食卓には英語と日本語が交じりあう。パーティが夜中まで続けば、息子の友だちはベットで勝手に寝るが、早い者勝ちである。ベットがなくなればKさんの寝室で寝る者もいる。ある夜、Kさんたちが仕事を終えて家に帰ると、夫婦のベットで数人の若者が雑魚寝していたことがある。

K家の正月料理はおせち料理、刺身、カニが並ぶ。裏庭からとってきた野菜や卵まである。雑煮の水菜は自家栽培である。私が「有機野菜は健康にいいですね」と言うと、奥さんは「水菜は雑草も混じってるのよ。分けるのが面倒くさいから一緒に入れちゃった。沢山食べてね」という。Kさんと一緒に裏庭に卵を取りに行くと、鶏小屋には野生の鳩が天井にたくさんとまっていた。彼は巣箱の中の卵を拾いながら、「エサがあるから野生の鳩が住みつくんだよね。」と事もなげに言う。

「来るものは拒まず」というK家だから犬ものんびりしている。ゴールデンリトリーバーの八ちゃんがソファを占領しても誰も文句を言わない。






2010年5月14日金曜日

毎日新聞の記事から(5月12日)

発信箱:「仮面」の人たち


1枚目は何が描かれているか分からなかった。あえていえば「のっぺらぼうの海ぼうず」のよう。2枚目はぐちゃぐちゃの斜線の向こうに人の顔のようなものが。3枚目は分かる。後ろから見た女性の頭部。顔は見えない。これが「お母さんの顔」なのだという。子供のころ、ママは振り向いてくれなかったか。


狭山心理研究所(埼玉県狭山市)には20~50歳代の「ひきこもり」たちが通っている。セラピストの服部雄一さん(60)が気になっているのは部屋に閉じこもるケースより、ふだんは「明るい人」を演じている「潜在的ひきこもり」だ。家柄もよく、学歴も高く、人当たりもいいのに、人間関係が築けない。そんな自らの「仮面」に悩む人たち。セラピーでA4判の紙に母の絵を描かせると、みな顔が描けない。見せてもらった十数枚全部そうだった。


同研究所のひきこもりは、世間体を気にする家に多いという。裕福だが、父は不在。母は感情表現ができない。そんな環境で育った子供たちが他人とかかわれるはずがない。母に合わせてきたいい子たちは、社会に出ても他人に合わせようとする。でも、恋愛の「仕方」はわからない。結婚なんて無理。赤ちゃんは不気味……。


「うちだけの話じゃない。ひきこもりは日本文化に固着した病理」と服部さんは断言する。個人よりも家や集団を優先し、本音と建前の二面性を容認する。善悪より和が大事な家と社会。「自分を消してきた人は、そもそも消す自分が見つけられない。いい人にみえるが、実は決断ができず、他人の意見に振り回されてしまう」。仮面の下の心の叫びに向き合ってきたセラピストが、期せずしてたどり着いた日本文化論。少子化が進む現状と考え合わせると、とても怖くなる。(社会部)