2010年5月14日金曜日

毎日新聞の記事から(5月12日)

発信箱:「仮面」の人たち


1枚目は何が描かれているか分からなかった。あえていえば「のっぺらぼうの海ぼうず」のよう。2枚目はぐちゃぐちゃの斜線の向こうに人の顔のようなものが。3枚目は分かる。後ろから見た女性の頭部。顔は見えない。これが「お母さんの顔」なのだという。子供のころ、ママは振り向いてくれなかったか。


狭山心理研究所(埼玉県狭山市)には20~50歳代の「ひきこもり」たちが通っている。セラピストの服部雄一さん(60)が気になっているのは部屋に閉じこもるケースより、ふだんは「明るい人」を演じている「潜在的ひきこもり」だ。家柄もよく、学歴も高く、人当たりもいいのに、人間関係が築けない。そんな自らの「仮面」に悩む人たち。セラピーでA4判の紙に母の絵を描かせると、みな顔が描けない。見せてもらった十数枚全部そうだった。


同研究所のひきこもりは、世間体を気にする家に多いという。裕福だが、父は不在。母は感情表現ができない。そんな環境で育った子供たちが他人とかかわれるはずがない。母に合わせてきたいい子たちは、社会に出ても他人に合わせようとする。でも、恋愛の「仕方」はわからない。結婚なんて無理。赤ちゃんは不気味……。


「うちだけの話じゃない。ひきこもりは日本文化に固着した病理」と服部さんは断言する。個人よりも家や集団を優先し、本音と建前の二面性を容認する。善悪より和が大事な家と社会。「自分を消してきた人は、そもそも消す自分が見つけられない。いい人にみえるが、実は決断ができず、他人の意見に振り回されてしまう」。仮面の下の心の叫びに向き合ってきたセラピストが、期せずしてたどり着いた日本文化論。少子化が進む現状と考え合わせると、とても怖くなる。(社会部)