2013年6月16日日曜日

ひきこもり発生のプロセス(7)長女M子の出産

L男は近所で誉められることが多かった。子どもをもつ奥さん達から、「L男ちゃんは良い子ね。どうしたらこんないい子ができるのかしら」、「うちの子どももL男ちゃんみたいに手がかからなければいいのになぁ」と言われると、K子さんはうれしくなった。

K子さんが買物途中で、近所の奥さんと立ち話をする時、L男はぐずらなかった。L男はK子さんのスカートをつかみながら大人の話をじっと聞いている。会話を邪魔しないので、K子さんは子どもを気にせずに、立ち話を楽しむことができた。K子さんはそんなL男が可愛いと思った。L男はようやくK子さん好みの子どもになったのである・・・

K子さんは、しかし、3才になろうとする子どもが母にワガママを言わない異常さに気づいていなかった。L男が大人しいのは、母が子どもの感情表現を嫌がるからである。子どもの気持が分からないK子さんは、L男が騒ぐと、イライラしたり、ムシしたりした。母に嫌われるのが恐いL男は、自分の感情を殺して、誰にも本心を見せない子どもとして完成しつつあった。

K子さんが妊娠したのはその頃である。生理が遅いので医者に調べてもらうと、妊娠2ヶ月目がもうすぐ終わると言われた。

K子さんは子どもを堕そうと思った。夫の協力なしに子育てするのがいかに大変か、L男の体験で学んでいた。そして、堕したい理由がもう一つある。K子さんは、見ないようにしているが、愛していない男の子どもを産むのはもう嫌だったのである・・・

夫に堕したいと言ったが、しかし、夫はいい顔をしなかった。両親が楽しみにしているので、夫は今さら堕胎するのは難しいと考えているようだった。しかし、いつものことだが、夫は深刻な議論を嫌がる。それ以上踏み込むと夫婦関係がギクシャクするので、K子さんは話を打ち切った(夫婦のコミュニケーションが無いので今でも夫の考えは分からない)

K子さんは子どもを堕そうかと考えているうちに、間に合わなくなり、長女M子を出産することになる。





時は昭和56年(1981年)。国民的アイドル山口百恵が引退して、レーガンがアメリカ大統領に就任した頃である。