2013年5月20日月曜日

ひきこもり発生のプロセス(1)K子さんの結婚式

ひきこもりの母親から、どのような流れでひきこもりの子どもが育つのか、そのプロセスを描いてみた。

ひきこもりの家庭は金太郎アメに似ている。どこを切っても同じような顔が現われてくる。ここで紹介する話は多くの母親に共通する人生体験である。読みながら自分のことを書いていると感じる人がいるかもしれない。しかし、特定の個人の物語はないので断っておきたい。ストーリーはすべてフィクションである。


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今日はK子さんの結婚式。式場には、父の取引先の人たちも含めて、100人以上の人たちが集まってくれた。

時は昭和50年(1975)。当時の日本は、戦後の復興に成功して、経済大国を目指す上昇機運が国中にみなぎっていた。

そんな時代に結婚するK子さん。幸せで一杯のはずだが心には一抹の不安があった・・・

夫になる人は一流企業の社員。学歴も家柄も将来性も申し分がない。しかし、一緒にいて楽しいかというとそうでもなかった。彼は良さそうな人だが、K子さんは強く燃えあがるような情熱を感じなかった。私は彼を本当に好きなのだろうか、そう考えると不安になってくる・・・



鶴岡八幡宮での結婚式は、鉢の木にお任せ下さい。
http://konrei.net/ceremony/hachimangu/


恋愛の経験がないK子さんは、男性を愛することがどういうことかよく分からなかった。会社の中に惹かれる男性がいたが、遠くから見るだけで、親しく話したことはなかった。

今回の見合いで結婚を決めたのは、彼が好きになってくれたからである。見合いの席で彼は、大人しくて気配りのうまいK子さんを気に入ったようだった。両親も周囲の人も良い縁談だと喜んでくれた。結婚に反対する人は一人もいなかった。

そして、お互いを理解する時間も無いままに、結婚式が来てしまった・・・

本音を言えば、K子さんが結婚を決めた理由は年齢である。当時の女性は24才までに結婚するのが当たり前だった。あと2ヶ月で29才になるK子さんは結婚を焦る気持ちがあった。これ以上独身でいるのは世間体が悪いし、親がもう良い縁談は来ないぞと言ったことが、K子さんの気持ちを動かしたのだった。

今さら「私は彼を愛しているか分からない」とは言えなかった。そんなことを言っても親は理解しないし、周りにメイワクをかけるのが嫌だった。

一緒に暮らせばもっと好きになるだろう、その淡い期待だけが将来の希望になった。そして、他の問題も見ないようにしたら不安は消えた。嫌な事を考えないのは子どもの頃からのクセだった・・・

人当たりがよいK子さんは職場では評判が良い女性である。しかし、笑顔のウラには他人への緊張感が隠れているが、とにかく、あまりクヨクヨ考えないようにしている。

K子さんは、自分が人を信じない潜在的ひきこもりだとは気づいていなかった。

そして、愛のない結婚がどのような悲劇を生むかを理解していなかった。